http://multichannelmerchant.com/blog/the-retail-bubble-how-to-survive-and-thrive-with-digital-innovation/
小売業者にとっては向かい風と言える。B&Mの肥大化の市場調整をする一方、多くの雑貨店や専門ブランド、また核店舗がものすごい勢いで撤退しており、Credit Suisse社によると、今年のうちに8600もの店舗が閉店したという。アメリカ合衆国労働省労働統計局の調査では、この風潮により小売業では前2ヵ月だけで6万もの仕事が失われたとしている。
どうしてこのような事態になったのだろうか。小売業者の間では長い間“If you build it, they will come(実際に行動を起こしてしまえば、結果は後から付いてくる)”理論のもと、積極的に店舗拡大を行ってきた。しかし、オンラインショッピングやAmazonの日常化によって、この小売業バブルは崩壊してしまったのだ。
小売業バブルの崩壊とその回帰
このような展開は実は全く新しいものではない。約10年前の2008年、Linens & Things社が市場撤退し、その後2009年にはCircuit City社、2010年にはBlockbuster社、そして2011年にはBorders社も同じく痛い目を見ることとなった。(Linens & Things社はその後オンラインブランドとして復帰。)小売業界の弱体化が前回と同じようにして今また起ころうとしている。
この最近の大規模の店舗撤退とその存続の困難を物語るのはいたって簡単なことである。多すぎるロケーション、高額な経常経費、多大な負債、経済成長の停滞、テクノロジーの向上、消費者の心理的変化がそれにあたる。しかしこれは、ただ単に面積や経費の誤使用、または景気循環の流れなどという単純なものではない。言うなればそれは、デジタルイノベーションへとつながる創造的破壊の一局であるのだ。
Borders社を例にとってみる。初期段階ではブックストアの先駆者たちがテクノロジーを武器に有利に立ち、その在庫システムによって消費者がどんな地域にいても何を買いたいのか予見を立てることができた。Borders社は結局のところ損害を被ることとなる。大きくなりすぎたが故に負債が増え、またiPodが流行することでCD産業へと進出することになる。
しかし持ち合わせていたデジタルエッジを浪費することにつながり、オンラインセールスを競合社であるAmazon社にアウトソーシングし、e-bookビジネスにも乗り遅れ、クロスチャンネルデジタルマーケティングや商品政策もなしにもがくこととなったのだ。
単純に言えば、Eコマースやデジタルマーケティングが未来的なものであり、小売者はそれなしに生き残れないことを理解しなければならない。だが未だに多くのB&Mの小売業者がデジタルを脅威であると見なしている。すべてのB&Mのストアが絶望的であるとか、店舗をすべて撤退させた方が良いというわけではない。小売業者が完璧にオンラインに移行するとは考えづらい(現在アメリカにてオンラインセールスは小売セールスの10%を占める)。それにプラスして、Floor&Decor社のような往来のB&Mの考え方に対抗する小売業者も存在しているのが確かである。
デジタル時代を行く抜く術とは
ライバル会社の進退、消費者の嗜好の変化、そして地代の変化。ただひとつ変わらないものとしては、オンラインであっても店舗であっても、顧客体験を向上させるために入念にデザインされた新しいデジタルストラテジーに常に対応していかなければならないということである。10年前のBorders社の件にしても昨今においてもこれは変わらない。それにもかかわらず昔の教訓から何も学ばずに今また同じことを繰り返そうとしている企業がちらほらと見受けられるのだ。
Movable Ink社はオンライン専用でマルチチャンネルとして、世界的規模の革新的ブランドと提携を結んでいる。以下に述べることは、昨今の小売業者たちにとって今の時代を生き抜くだけでなく、利益向上、費用削減、また競合他社に差をつけるための重要なチップである。
リアルタイム・パーソナライゼーション
小売業者はダイレクトマーケティングに対する考え方を改める必要がある。全商品の載ったカタログやメールが効率的であるとは言いづらい。手元にあるものすべてを売却しようとして奇跡的に何かが売れるなんてことを期待するのはやめたほうが良い。それよりは顧客それぞれのニーズや動機をもとに価値を提供しなければならない。コンテンツに関してよりかしこくなるべきである。
顧客体験をパーソナライズすることは非常に重要であることが研究によって裏付けれらている。 OneSpot社とMarketing Insider Group社の2016年の研究によると、59%のインターネットユーザーが、個人向けにカスタマイズされた内容の方が少なからず購入意欲を上げ、19%のユーザーは確実に購入意欲が上がると回答した。この長期にわたるサイクルをこなすためにコンテンツやデータ、ビジネス理論を組みあわせ、メールやウェブサイト、モバイルアプリといったデジタルチャンネルを通してリアルタイムで個人向けのコンテンツを送り届けるに、ロケーションや開店時間、時間、気候などの可変的な要素を駆使する必要がある。
リアルタイムマーケティングは、個人向けのオファーやコンテンツ・オートメーションをニュースレターやメール、注文確認書に組み込むといった方法であれば、常に変動する価格や在庫を考えると小売りの製品促進には非常に効果的である。
予測分析と行動分析
予測モデルは長期的で複雑なプロセスであり、消費者側というよりは小売業者側のニーズや目的に偏っていた。ある程度の予測は的を得ていても、もともとの課題である“いかにして消費者によりよい顧客体験をもたらすことができるか?”“いかにして全チャンネルでリアルタイムで起こる消費者行動を対処することができ、消費者が購入するその時点で関連性のある商品を提示することができるか”に対する答えはなかなか得られないでいた。
おすすめ商品を例にとってみる。もし自分が本の小売業者であるとして、消費者の最近の検索履歴から得られるアルゴリズムを使わずに、週刊ニュースレターのタイトルを時間をかけて自らキュレートすることに何の意味があるというのだろうか。(これはいまだに大手の小売業者で行われている場合もある。)地域の家族経営ショップであるなら確かに、その地域の作者やスタッフの推薦作品という形で店内にコーナーを設けることはいいかもしれない。だがデジタルの大規模な世界でオートメーションを使わずに同じことをするのは難しい。何年か前に、Netflixが高機能のアルゴリズムと人工的分析によって得られた情報をもとにおすすめ作品を提示していることを説明した。AIをベースにした予測分析が、データの分析チームを雇うほどの資産がない小売業者たち、また費用と時間のかかるものだと判断していたマーケターたちにとっても、より簡単に、かつアクセスしやすくなってきた。
今日、おすすめ商品の提示には注意を払わなければならない。消費者が購入するのは商品ではなく、商品から得られる体験価値である。マーケティングはこれを根本的なものとして考えなければならない。予測分析と行動分析は同じ商品でも個々の体験価値を変えることによってこの“おすすめ”を次のレベルへと押し上げるのに必要なのだ。(同じブーツでも、それが長い間かけて計画を練ったパタゴニアへのトレッキング用に使うためのものなのか、それとも週末のトレーニングキャンプに使うためなのか、使い道はそれぞれであるということだ。)
店頭でのデジタルの導入
デジタルイノベーションの必要性はオンラインに限られたことではない。小売業者は、ストアの数を減らしたとしても、どのようにして残りの店舗にいかに効率的に実際のレイアウトと一緒に新しいデジタルイノべーションを組み込むことができるかを考え直さなければならない。実際、EコマースとB&Mが全く違うものだと考えるのはお門違いだということだ。
オンラインからB&Mへと方向転換した小売業者の例として、Amazon Booksが挙げられる-AmazonこそがB&Mを崩壊したと言っても過言ではないのだが。Amazonは今5つの州に6店舗構えており、今後もさらにニューヨークシティの2店舗も含め計6店舗オープンする予定である。今の段階でこれが成功するか判断することはできないが、これの興味深いところと言えば、オンラインと店舗を融合するようにデジタルファーストの戦略をもとにデザイン、建設されているということだ。Amazon社はこの店舗を“Amazon.comの実店舗”として、オフラインショッピング(例:実際に手に取って商品を選別できたり、電子ブックリーダーの使用すること)とオンラインショッピング(例:実本の横に消費者のレビュー)の利点を統一し、消費者が気に入るであろう本やデバイスを見つけやする。
B&Mの小売業者に、古いマーケティングテクノロジーに取って変わる新たなテクノロジーを提供する企業が存在する。Glass-Media社は小売りの常識をより効率の良いテクノロジーで一蹴しようと奮起している企業である。Point Inside社は小売業者たちがビーコンを使った店舗の顧客と交流を持つことを可能にしている。だからといって常に最新のテクノロジーを取り扱わなければならないと言いうわけではない。従業員にタブレットを手渡し、消費者の探している商品を見つけ出すことを手伝い、おすすめ商品の説明、そしてもし店頭での取り扱っていなかったら商品の注文をかけることで、列に並んで待つことを防ぐことができるのである。
見据える先には
小売業者にとっては厳しくもあり、また刺激的なな時代である。時が経つにつれてこの小売業界のバブルの勝者と敗者が見えてくるのは確かだが、今ひとつだけ確かなことと言えば、もしこの競争に勝ち残りたいのであれば、経営上とマーケティングの両方の角度から再構築を図り、消費者に焦点を当てることを心得ていなければならないということだ。かしこい小売業者たちはデジタルイノベーションを常に視野に入れている。そうしていれば、今後どんなバブルが来ても優位に立って物事を進められることができるのだから。